御茶ノ水の夕暮れ

 土曜日の朝のこと、だらだらとスマホをいじっていると、ツイッターアカウントに通知が入っていたことに気付いた。どうも一年近く前の投稿がリツイートされたらしい。そのツイートはソ連映画最初期の映画監督、メドヴェトキンに関するもので、時期から考えても題材から考えてもそうそう発掘される類のものではない。一体何事だろうと思ったら、御茶ノ水アテネ・フランセでメドヴェトキンの上映会があるらしいのだ。上映作品は『幸福』と『新しいモスクワ』の二作品で、『新しいモスクワ』ならば用事を済ませたあとでも間に合いそうに思えた。実のところ新モスクワは一度観たことがあるのだが、これもなにかの縁だろうと思って、足を運んでみることにしたのである。
 アテネ・フランセ御茶ノ水校は、JR御茶ノ水駅の御茶ノ水橋口を出て、川を右手に五分ほど歩いたところにある。この通りを歩くのは久々のことだった。高校生の頃、僕はここの駿台に通っていたのだ。御茶ノ水駅前のコンビニで100円のコッペパンを買って、駿台二号館のフリースペースで食べながら勉強していたことを、唐突に思い出したりした。あるいは、夜ラーメンを食べたこと、美大受験予備校の壁に飾られたデッサンをぼんやり眺めていたことを。恥ずかしながら、受験に落ちた時の悔しさすらじわりと湧き上がってきて、周りを見渡して誰もいないことを確認してから、小さな声で、「俺も東大行きたかったなあ」と口にしてみた。まるきりバカなガキのすることである。やったそばからおかしくなって、笑ってしまった。
 映画の前に遅めの昼食を取ろうと思い、暑い中三十分近くあたりを歩き回ったのだが、無難な飲食店を見つけることができず、結局駅まで引き返して、駅の近くのリンガーハットでちゃんぽんを食べた。あそこは値段が少し高めだけれど美味い。僕は今やサラリーマンなので、リンガーハットで昼食を取るくらい造作もないことだ。
 映画とその後のトークショーが終わると、外はもう薄暗くなっていた。夕暮れ時のノスタルジーが愉快だった